睡眠と記憶固定メカニズム

 

目次

・睡眠と記憶強化

・睡眠中の記憶増強における行動生理学的特徴

・情動と記憶 

 

睡眠中の記憶強化

アセチルコリン説】

レム睡眠中にコリン作動性神経活動は増加する

・コリン作動性神経活動は海馬におけるアセチルコリン濃度が高まることや

 前頭―側頭皮質におけるθ波またPGP波との関連を強く推測されていることから

 海馬と脳皮質との情報伝達の役割を担い記憶増強に関連している可能性がある

・PGO波:レム睡眠に特徴的な脳波で夢見・記憶増強との関連が推測される

・結果:レム睡眠は記憶増強において有力な神経構造を持っている

 

スピンドル説】

睡眠紡錘波は記憶増強に伴う海馬―皮質間の情報伝達を担っている

・睡眠紡錘波はレム睡眠に特徴的な脳波と言われており、視床を発生源として多様な皮質領域に投射する。また、睡眠紡錘波の出現とほぼ同期して海馬・皮質の局所由来性鋭波活動が出現しているため、情報伝達に関与している可能性が高い

 

【遺伝子転写仮設】

・記憶の分子性物学的基礎単位と考えられている遺伝子は睡眠依存性が高く、

 睡眠剥奪により遺伝子転写活動・記憶増強量の低下を認めている。

・記憶の分子性物学的基礎単位と考えられている遺伝子は睡眠中に転写活動が高まると言われている

※他方で睡眠中の遺伝子転写活性向上はホメオスタシス維持に伴う現象に過ぎない、むしろ遺伝子活性低下により神経可逆性が高まることで記憶増強される説も支持されている

 

睡眠中の記憶増強における行動生理学的特徴

【睡眠中の対連合記憶増強】

対連合記憶:二単語を対にして記憶し、1方の単語を提示した時に対となる単語を答える課題で陳述記憶課題である

・対連合学習は、睡眠剥奪条件では通常と比較し成績が低下するが、後半睡眠剥奪条件(つまり徐派睡眠少ない)では低下を認めていない。そのため、ノンレム睡眠と陳述記憶強化の関係が推測される。

コリンエステラーゼ阻害剤投与によりコリン作動性神経活動を低下させると対連合学習の向上を抑制される。徐派睡眠中のコリン作動性神経活動が陳述記憶強化に関与している可能性が高い

 

【睡眠中の指動作記憶増強】

指動作課題は睡眠依存性の記憶増強を認める。さらに、指動作課題の難易度と学習効果には関連を認める。難易度が高い程、技能向上を認める。睡眠依存性の技能向上過程は苦手な動作を認識し集中的に作用する特有の記憶プロセスを保持している。

 

【パズルゲームにおける睡眠学習

パズルゲームを睡眠前に実施すると、夢見量が多いほどパズル成績向上を認めた。

これは、夢見中にパズルを反復して居り記憶内容が強固になり、イメージトレーニング様効果で運動動作が巧みになる可能性を示している

記憶課題施行後のレム睡眠では、小脳・一次運動野を中心として課題遂行中とほぼ一致する部位の活性化が報告されている。

 

情動と記憶

情動的な記憶は情動の関与の少ない記憶と比較して記憶増強のプロセスが働く。

これは、①情動的な記憶は睡眠中に強く想起されやすいことや、②徐派睡眠中にノルアドレナリン神経活動の突発的出現が関与していることが推測されている。

また、

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の要因として交通事故が挙げられる。

交通事故体験をさせた当日の睡眠を剥奪した場合、交通事故の体験想起はされるが、同時に起こる恐怖感情再現は弱まり、生理的反応も惹起されにくい。

 

 

 

参考文献

睡眠と記憶・認知機能  栗山 健一