高齢者と不眠症
目次
・加齢による睡眠および概日リズムの変化
・高齢者における不眠症
加齢による睡眠および概日リズムの変化
①総睡眠時間の減少
②stage 1 と stage 2 が主体となり、徐波睡眠が減少する
③中途覚醒の増加・睡眠効率の低下
④徐波睡眠の減少とともに,睡眠前半でのREM睡眠の出現が増加
⑤睡眠後半でのREM睡眠の持続性が低下すること
⑥就床時刻,起床時刻は早まり,朝型となる.
⑦午睡時間の増加が認められ,多相性睡眠となる
【原因】
①脳代謝低下により、睡眠欲求低下
②脳内ニューロン減少により、徐派睡眠の減少
③加齢により、生体リズム(体内時計)の障害
→高齢者では活動性低下や感覚器の低下による光同調因子・社会同調因子の減弱も要因
④深部体温リズムの位相の前進・振幅低下
高齢者における不眠症
【不眠症の要因】
・身体疾患:整形・心臓・糖尿病・慢性肺疾患、泌尿器
→疼痛、頻尿、呼吸困難、痒み
・治療薬:β 受容体遮断薬,カルシウム拮抗薬,気管支拡張剤, ステロイド製剤,
抗パーキンソン病薬,選択的セロトニ ン再取り込み阻害薬(SSRI)など一部の抗うつ薬
・その他:喫煙・アルコール、カフェイン
【不眠の治療】
①ベッド上で多くの時間を過ごさない
②寝付けなければ、一度離床する
③就床・起床時間を一定に保つ
④昼寝は午後の早い時間帯(12-15)に30分までに制限
⑤定期的に運動する
⑥日中、特に午後の遅い時間帯はなるべく戸外で過ごす。
⑦一日の光暴露量を増やす
⑧午後以降はカフェイン・タバコ・アルコールの摂取を控える
⑨夕方以降は水分摂取を制限する
【睡眠障害と転倒】
・不眠は薬物とは独立した転倒のリスクである
・転倒の約 25%は夜間に起こり,夜間の転倒の半数以上が中途覚醒およびトイレ通いと関連しているという報告もある。
→尿産生量は睡眠時に減少するが,中途覚醒が多いと尿産生量が減少せず,また,高齢者では膀胱畜尿量も少ないため、夜間頻尿・多尿となり,さらなる中途覚醒をもたらすという悪循環があることが考えられる.
→不眠は日中の眠気やふらつきの原因となり,昼間の転倒にも結びつく
認知症における睡眠障害
【アルツハイマー型】
①総睡眠時間および睡眠効率の減少
②中途覚醒の増加
③%stage1の増加
④スピンドル活動の低下
⑤徐波睡眠・REM 睡眠の減少がより顕著にみられる
⑥睡眠関連呼吸障害を高頻度に合併
→呼吸に関わる脳幹部の神経変性が,
⑦夜間のメラトニン分泌量の減少、日中の分泌抑制の低下
⑧深部体温リズムの平坦化・位相の後退を生じ、
内分泌系および自律神経系の概日リズム障害を生じる
【レビー小体型認知症】
①日中の眠気、睡眠時の下肢運動,覚醒時の混乱,悪夢
②DLB患者の 50% 以上に REM 睡眠行動障害がみられる。
③複数の神経系の障害が睡眠障害を受ける
【治療】
認知症患者の睡眠障害と行動障害は,睡眠覚醒リズムの振幅の低下やメラトニン分泌の減少と関連し,毎朝 2 時間の高照度光照射により, 有意に夜間の睡眠時間の延長と日中の睡眠時間の短縮がみられた。
また,高照度光療法の作用機序として,高照度光が生体時計に作用し,夜間のメラトニン分泌量を増加させ,睡眠覚醒リズムを改善させることが示される。さらに,高照度光療法により,睡眠障害ばかりでなく,認知機能や気分,日中の活動性などの非認知機能も改善したとの報告がある
参考文献
高齢者の不眠
小曽根基裕 黒田 彩子 伊藤 洋