高齢者の睡眠 特徴
目次
・睡眠覚醒調節のメカニズム
・高齢者の睡眠の変化
・不眠と不眠症の違い
・不眠の評価
・不眠の治療
・治療の注意点
・神経疾患による不眠
睡眠覚醒調節のメカニズム
①生物時計機構
・生物時計は内因性の1日約25時間の概日周期のリズムを形成しているが、
①明暗サイクル(光) ②食事(1日3食) ③社会生活活動 の情報によって1日24時間の
リズムに修正し、それに合わせ睡眠覚醒系・深部体温・メラトニンの分泌を調整している。
②恒常性機構
起床後の覚醒時間が長くなるにつれて睡眠欲求が高まる。これは、ずっと起きていたらいずれ眠くなる基礎的なシステムとなります。
覚醒の強さは、入眠2~3時間前が覚醒度のピークを迎えます。この時間帯を過ぎたら、睡眠準備として深部体温の低下やメラトニン分泌が始めまり睡眠に入ります。
高齢者の睡眠変化
①生物時計の位相前進・振幅低下・ノンレム睡眠減少
→早寝早起き、深い眠りが少なく、夜間覚醒が増加する
②多相性睡眠
夜間だけでなく、昼間の睡眠も増加する
※若者は単相性睡眠で夜間のみの睡眠となる
③夜間睡眠時間の低下
高齢者では6~7時間
若者は7~8時間
不眠と疫学
不眠の有病率:20%(20~60歳)
30%(60歳以上)
不眠と不眠症の違い
不眠; 夜眠れないことを主訴とする
不眠に関連して心身不調・機能障害・生活の質の低下をきたす疾患群
週3日以上、かつ3ヶ月以上認めるもの
病態別:概日リズム(睡眠覚醒リズム)
調節系(生物時計機構)
睡眠系(睡眠の質・量)
覚醒系(過覚醒)
原因:生理学的要因(寝室環境)
心理的要因(心理ストレス)
薬理学的要因(ステロイド、気管支拡張)
身体疾患(内科・外科)
睡眠関連疾患(ナルコレプシー、レストレッグ症候群)
不眠の評価
主観的:ピッツバーグ睡眠質問票
エプワース眠気尺度
客観的:睡眠ポリグラフ検査(ビデオ検証)
不眠治療
①体内時計をリセットする
→朝日光浴を行う、起床時刻を一定にする、3度の食事をとる
②昼寝は15~30分まで!
時間帯は12~15時の間
③睡眠2時間前の入浴
入浴で深部体温を上昇させ、その後低下が起こるため、就寝準備と同じリズムになる
④就寝前の禁止事項
カフェイン:4時間前には禁止
喫煙:避ける
飲酒:夕食時に適量とする
パソコン・スマフォ:避ける、ブルーライトはメラトニン抑制・覚醒度を高める
治療の注意点
①加齢に伴う睡眠の変化を理解してもらう
→年相応の睡眠状態に改善することが目的
②生活習慣の改善が図られていること
→薬だけに依存しないように
③不眠に対するこだわりがなくなること
④日中の心身不調が改善していること
→不眠症は日中に影響を及ぼすことが定義されているため、不眠だけに目を向けない
⑤基礎疾患を考えて薬物を使用する
臓器の機能低下により、代謝低下や排泄遅延から薬効が残存し、
日中にまで眠気残存・筋弛緩作用など転倒・骨折に影響する可能性が高い
神経疾患における不眠
①脳卒中
・脳卒中において、50%以上の患者に過眠・睡眠関連呼吸障害・不眠などの睡眠障害の併存
がある。
・脳病変/脳卒中重症度/うつ、不安などの精神心理要因/認知症/睡眠時無呼吸
内科疾患(心不全・肺疾患)/発症前から不眠/ などが原因として挙げられる
・睡眠障害は25~30%に認める。
・日中の眠気(頻回の昼寝)や不眠(入眠困難・中途覚醒)、睡眠覚醒リズムの多相化
・身体活動や社会活動の低下/日中の光暴露量低下/精神症状/睡眠時無呼吸
視交叉上核の変性、メラトニン分泌リズムの振幅低下と分泌量低下、体温リズムの平坦化や
位相の後退など概日リズムの変化は、日没症候群やせん妄の発症との関連が示唆されてい
る
・RBD(レム睡眠行動異常)の頻度は68~80%を高値であり中核症状となっている
・うつ症状/自律神経(心臓交換神経障害)/幻視/注意・覚醒レベルの変動を伴う動揺性認知障害
・60%に不眠を認める
・1次性原因:睡眠覚醒系の神経核の変化(視床皮質系覚醒系や間脳・脳幹部の
神経調節系の変性)
2次性原因:運動症状(夜間無動、筋固縮、振戦、早期ジストニア)や
自律神経症状(夜間頻尿、起立性低血圧)
3次性要因:ドパミン治療合併症(ジスキネジア、ウェアリングオフ現象)
参考文献
高齢者の睡眠障害 宮本雅之