高齢者の睡眠と睡眠障害
目次
・睡眠の問題点
・加齢による睡眠変化
・高齢者における睡眠特徴
・睡眠薬
・認知症と睡眠
・睡眠障害の分類
睡眠の問題点
睡眠を持続できない
夜間なども起きる
要因
・疾患による睡眠の質低下
身体疾患(夜間頻尿、痛み、痒み、呼吸困難)や精神疾患(認知症、うつ病)
・核家族や独居に対する不安
・退職や死別による心理的ストレス
・薬剤性睡眠障害
加齢変化
・就寝・離床時刻および入眠・覚醒時刻が早まる
・頻回の中途覚醒を認める
・徐波睡眠量の減少、それに伴いレム睡眠の前方シフト)
・睡眠後半でのレム睡眠の持続性低下
高齢者における睡眠特徴
・早期覚醒型不眠の増加
高齢者では中途覚醒・早期覚醒が著明に増加し、
若者に比べ小さな刺激でも起きてしまう
・睡眠習慣と睡眠特性のミスマッチ
睡眠時間は減少(約6~7時間)・床上時間は増加(約9時間)
→眠ろうとしてずっとベッドに横になる時間が多く、それに伴い焦燥・緊張が
強まってしまう可能性が高い
睡眠薬
・高齢者の服薬量は増加傾向にあり
主流であるベンゾジアゼピン系薬物は筋脱力・健忘などの副作用を生じやすい
→高齢者では骨折・転倒のリスクを高め注意が必要
認知症と睡眠障害
周辺症状(徘徊・暴言ex)に使用される睡眠薬・向精神薬はエビデンスが確立されていない、さらに、筋弛緩・失調による転倒・日中の傾眠に繋がる。
本当に不眠症状なのか?
過活動型(睡眠2~3時間)や小活動(昼寝も含めて12時間程)など認知症高齢者は個人差が大きい。睡眠薬では効かず、日中の覚醒を促しリズムを整えるなど個人に合わせた工夫が大切。
また、総睡眠時間が7~8時間と正常でも、体内時計の器質障害や同調因子の減弱などが原因で睡眠覚醒リズムが崩れることが多く不眠に見えることが多い。
注意しなければならないのは、薬物療法で一時的に症状が改善しても、高齢者では薬物の体内蓄積・午睡の増加により中長期的にみてADL低下に影響する可能性がある。そのため、1ヶ月程度で定期的に評価を行い不眠・行動障害が緩和していれば適宜減量・休薬をここrみる必要がある。
睡眠の7大分類
①不眠症
②睡眠関連呼吸障害
③過眠症
④概日リズム睡眠障害
⑤睡眠時随伴症
⑥睡眠関連運動障害
⑦その他の睡眠障害
多岐にわたる高齢者の睡眠障害
→夜間の激しいいびき、換気停止による血中酸素分圧の低下、途中覚醒
・日中の過睡眠
・心血管系障害リスク要因:低酸素血症による代償性高血圧
・ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、呼吸抑制や筋弛緩作用により睡眠時無呼吸を増悪させ,
夜間の呼吸・循環器機能を低下させる危険性がある
【レストレスレッグス症候群】
・夜間入眠前の安静時に、下肢の不快感と入眠困難を生じる
・「むずむずする」, 「虫が這う感じ」,「痛み」,「不快感」,「突っ張る感じ」 など種々あり,下肢を動かすことにより軽減するのが特 徴的である.
・両側の足関節と膝関節の間に生じることが多い
・一般成人中での有病率は1~3%と考えられ,加齢とともに有病率は増大する.
・貧血,尿毒症,関節リューマチ などに合併することも多い.
特に鉄欠乏が本症のリスク 因子になり,鉄剤により症状が軽減することもある.
【睡眠時周期性四肢運動障害】
・周期的な四肢異常運動の反復動作
・下肢(足関節の背屈 が母指の背屈,膝関節の屈曲を伴って繰り返し出現する.
・1回の異常運動の持続は05. ~5秒で、20~60秒間隔で出現
・睡眠1時間当たり5回以上、不眠や日中の過度の眠気などの自覚症状
・加齢とともに有病率は増加、
自覚症状を伴わない者も含めると65歳以上の高齢者では20%以上
【レム睡眠行動障害 】
・レム睡眠時には生理的に筋緊張が低下するが、抑制機構に障害が起こり,
レム睡眠時に夢の中での行動を反映する異常運動(行動)が認められる.
・軽症例では,大きく明瞭な寝言や床の中での四肢の異常運動がみられる程度
重症例では、寝床から出ての活動・興奮して暴力行為
・異常運動は 覚醒直前にみていた夢の内容とよく合致する.
・通常の夢体験と同様に刺激により容易に覚醒し,覚醒後は異常行動や認知障害を残さないためせん妄との鑑別は容易である.
・中高年齢層に多い
・パーキンソン病,レビー小体病, multiple system atrophyなどの変性神経疾患で多い
【内科/精神科的疾患に合併する睡眠障害】
・内分泌疾患
慢性閉塞性肺疾患,胃潰十二指腸潰瘍,逆 流性食道炎,うっ血性心不全,糖尿病
・疼痛性疾患:
腰痛症,線維筋肉痛症,リウマチ
・皮膚療痒性疾患:アトピー性皮膚炎
・精神科的疾患:老年期うつ病,不安障害,アルコール症
【薬剤惹起性睡眠障害】
・降圧薬(b遮断薬,a2刺激薬,Ca拮抗薬)
・抗パ一キンソン病薬(ドパミン製剤,MAO-B阻害薬,ドパミンアゴニ スト,抗コリン薬)
・気管支拡張薬,インターフェロン
・精神刺激薬などで不眠,悪夢,日中の過眠,夜間ミオクロー ヌス,うつ状態などが生じやすい.
・さまざまな心理社会的ストレレスが誘因
・他の睡眠障害を除外診断した後に本症と診断される
・不眠の程度が著しい場合,意欲や集中力の低下,疲労感などから日中の眠気が強まり,悪循 環的に夜間不眠が悪化する.
・不眠症の半数以上は2ヶ月 以内に自然治癒する.
・不眠症が長期 (数ヶ月以上)にわたり持続すると,
交感神経緊張や視床下部-下垂体-副腎皮質系機能の亢進など生理的過覚醒と呼ばれる状態に陥るため、不眠が重症・難治化する
・心気的,強迫的,神経質な性格傾向の強い患者の場合には,不眠症状へのこだわりが生じて不安が増強し,不眠が悪化・遷延しやすい.不眠体験を持続させず,むしろ発症初期に治療を行うことで慢性不 眠症を防止することができる
高齢者の睡眠と睡眠障害 三島和夫