疼痛理学療法の最新

目次

疼痛概念

不活動や運動の抑制により出現する慢性疼痛

不活動期の理学療法

 

 

【疼痛に対する3つの概念】

①感覚的側面

②情動的側面

③認知的側面

 

①感覚的側面ボトムアップ型):痛みの発生メカニズム

【具体例】 

 転んだ時の怪我、手術後の術創部、骨折

【解説】  

 痛みの情報が外側脊髄視床路を経由し脳の一次体性感覚野へ投射されることで

 体部位再現に基づいた痛みの感覚が発生する

②情動的側面ボトムアップ型):痛みの情動発生メカニズム

【具体例】

 自律神経反応:冷汗、心拍数・血圧上昇

 行動反応: 驚く、泣く

【解説】

 痛みの情報が内側脊髄視床路を経由し大脳辺縁系へ投射されることで

 痛みの情動が出現する

 痛みに対する不快・嫌悪などの情動により、偏桃体・島皮質の活動に変化が起こり

 脳幹の興奮が起こると交感神経優位の自律神経反応が出現してしまう

③認知的側面トップダウン型):慢性疼痛の出現メカニズム

【具体例】

 慢性腰痛・膝痛、損傷後3~6ヶ月以上経っても出現する痛み

【解説】

 疼痛経験が記憶されることで、侵害刺激(怪我)がないにも関わらず、

 痛みの認知を出現させてしまう。

 

【不活動や運動の抑制により出現する慢性疼痛】

・環境因子:

 固定・免荷による関節運動の抑制

・個人因子:

 ⇒疼痛防御行動による慢性疼痛出現

 患肢の不使用→体性感覚・運動出力低下→脳内体部位再現の縮小

  ※慢性疼痛患者では一次体性感覚野の体部位再現が狭小化すると報告されている

 ⇒「身体失認症状(患肢の無視)」や「ネガティブ思考(身体に対して憎悪を抱く)」など

   悪循環システムがメカニズムとして存在している

  損傷・トラウマ→疼痛→運動抑制→疼痛防御行動→学習性不使用

 →脳内体部位再現の狭小化→患肢の失認・運動無視→患肢の嫌悪感→社会への嫌悪感

 

【不活動期の理学療法

・早期からの運動・感覚入力

 ⇒電気刺激による筋収縮

⇒振動刺激による感覚入力・運動錯覚を起こす

 

【情動面からみた疼痛の慢性化モデル】

・疼痛-回避モデル

 損傷→痛み体験→破局的思考(ネガティブな情動・不要な病気情報など)→痛み関連不安   

 →過剰回避行動→不活動・抑うつ・能力障害(薬物に対する執着。機能障害)

【疼痛抑制に対する運動療法の効果】

・β-エンドルフィンの増大(多幸感・鎮痛)

オピオイド結合の減少

 ※中等度負荷となるランニングにおいて

繊維筋痛症患者において

  身体活動高い→背外側前頭前野の活動高い→痛みを抑制する領域

  身体活動低い→一次体性感覚・頭頂葉の活動高い→痛みの感覚的側面

しかし

・慢性疼痛患者において、内因性オピオイドが放出されない研究もある

・痛みを呈する隣接部位の運動により鎮痛効果を認める

 運動効果or運動に対する注意のメカニズムか明確ではない。

 

【疼痛に対する認知行動療法の効果】

   腹外側前頭前野視床の機能的コネクションの増強

   →末梢からの侵害刺激を視床で抑制する効果増大

  • ポジティブ・ストラテジーの獲得

   ストレス因子と上手く向き合うことが可能となり、腹外側前頭前野の活性化

【疼痛に対する神経調節テクニック】

 反復経頭蓋磁気刺激法

・一次運動野

 →健側の一次運動野の活動を抑えることで、

  患側の一次運動野は脱抑制を生じその動きの正常化を図る

・背外側前頭前野

 →前頭前野の興奮を変調させることで抑うつ症状の改善、疼痛軽減を図る

 

前頭前野の機能に基づく疼痛抑制メカニズム】

【背外側前頭前野

→注意の操作(痛みから注意をそらす)

【腹外側前頭前野

→思考の柔軟化(疼痛に対する)

これらの神経メカニズムの作動により

→前帯状回の興奮を低下させ、中脳水道灰白質を活性化させることで

βエンドルフィンやオピオイド系の神経伝達物質の放出を高め鎮痛をもたらす

 

【運動イメージの重要性】

【問題点】

末梢からのボトムアップ情報とトップダウン情報処理に基づく知覚の予期に解離が生じると疼痛が慢性化してしまう認知的モデルがいくつかの研究で示されている

【治療】

・目の前に提示された写真の手が左手か右手かを識別する手の左右認知課題

・心的に求められた運動をイメージ想起する課題

・ミラーセラピー

【メカニズム】

・振動刺激を用いた物理的手段は,末梢からの求心性情報により運動知覚をボトムアップに脳内に形成させるもの

・この運動イメージは,脳内の記憶に基づいて運動知覚をトップダウンに形成させるもの

 

引用文献

疼痛理学療法 ~森岡 周