筋肉と関節運動の関係

目次

・長趾屈筋・長母指屈筋と足関節背屈

腓腹筋と膝屈曲

・外旋六筋と股関節屈曲

 

【長趾屈筋・長母指屈筋と足関節背屈】

解剖:起始から停止までに踵骨の載距突起の後下方を通過している

問題点:短縮した場合、後方から距骨内側を圧迫するように作用するため、

    →足背屈運動時に距骨滑車の後方への滑りが外側優位となり、

      外返しを伴った背屈運動となる

    ①足部内側の軟部組織に牽引負荷がかかる

    ②足部外側では距骨滑車と外果のインピンジメントが生じる

腓腹筋と膝屈曲】

問題点:①腓腹筋内側頭の筋緊張亢進が膝窩部で生じている場合は、

     下腿を後面から圧迫し下腿の内旋制限を生じる。

    ②下腿内旋制限によりスムーズな膝屈曲が制限されるため、

     着座などの動作時に必要に応じて評価・治療する必要がある

 

【外旋六筋と股関節屈曲】

解剖:股関節内外転・内外旋中間位で股関節屈曲を行う場合、

   大腿骨頭は寛骨臼内を内旋するよう滑る運動が重要。

問題点:①短縮した際に股関節の屈曲・内旋に制限がかかる

    ②股関節屈曲時に代償として、寛骨の後方回旋(上後腸骨棘の後下方移動)が

     生じ、後方回旋が定着すると①仙腸関節のアライメント不良、②後方回旋に

     よって脊筋群が伸長され腰背部痛を引き起こす。

治療:①外旋六筋のモビライゼーション・柔軟性向上

   ②腸骨筋の筋力強化→大腿骨頭を臼蓋に引き付けるインナーマッスルであり

    股関節屈曲・外旋に作用するため、柔軟な筋力発揮が歩行においても重要となる

 

参考文献:下肢のバイオメカニクス

 

 

リハビリ:ブリッジ動作・ヒールレイズ動作の方法

目次

・筋力強化について

・ブリッジ動作

・カーフレイズ動作

 

【筋力強化】

まず、「注意せず筋力トレーニングを行うと、弱い筋は使われず相対的に強い他の筋を使う」と言われています。

そのため、肢位・抵抗部位を意識して、強化したい筋肉に対してアプローチすることが大切。

 

【ブリッジ動作】

効果:①多裂筋による腰椎間安定化、②股関節伸展筋の強化

役割:大殿筋上部線維:骨盤左右方向への安定性に関与

   大殿筋下部繊維:骨盤前後方向への安定性に関与

問題点:①胸椎伸展による脊柱起立筋(最長筋・腸肋筋の過活動)

    ②前腕・手部でベッド押し付け肩伸展・肩甲骨内転・胸椎伸展の代償

    ③頸部伸展による頭部をベッドに押し付け代償

方法:①上肢を頭の後ろで組み、頭部挙上による腹部収縮・胸郭の引き下げ

    または、枕を高くし、上肢を胸の前で組む。

   ②セラピストは大殿筋下部繊維・腹部(内腹斜筋・腹直筋)を把持し、骨盤後傾・胸郭の引き下げを促す

 

【ヒールレイズ】

効果:下腿三頭筋の筋力強化

役割:立脚後期での蹴りだし、歩行速度・安定性に関与

問題点:下腿三頭筋が低下すると、長趾屈筋・長母指屈筋の代償が生じる

    →足趾屈曲傾向となり、①前足部への荷重障害

     ②ウィンドラス機構破綻による蹴り出し低下に繋がる。

方法:母指球荷重でのヒールレイズでは、腓骨筋優位となりやすい

   第2.3趾荷重でのヒールレイズでは、下腿三頭筋の収縮を認める

 

 

参考文献:筋力低下に対するアプローチ

筋緊張のコントロール

目次

・姿勢と運動の調整

・筋緊張の分類

・治療の階層性

・筋緊張コントロール

 

【姿勢と運動の調整】

・健常人では日常生活上の多くの動作は、脊髄・脳幹の反射により無意識下行うことが可能となっている。それをさらに高位中枢が制御している。脳血管障害では、感覚入力低下によりパターン化された制御が困難になる。

・脳は運動の制御に対して階層性を形成している。

①パターンジェネレーター

 例)脊髄反射、姿勢反射  

 中枢:脊髄・脳幹

②アクションジェネレーター

 例)呼吸・発生・咀嚼・歩行

 中枢:中脳・橋

③凡用性ジェネレーター

 例)ADL等の習慣化され、かつ努力を要しない動作

 中枢:大脳運動野

④外界状況の監視・将来の状態予測・行動の選択・決定。

 例)上記1-3以外の運動

 中枢:大脳連合野

 

【筋緊張の分類】

①神経原性因子

②非神経原性因子

→a)筋・皮膚などの軟部組織変化(連合反応・代償動作・弛緩)、それに起因する疼痛

 b)過剰動作による代償・誤動作による関節・筋等の炎症、合併症の出現及び憎悪

 c)環境・人格(性格・家族背景)、精神面に作用する要素

 

【治療の階層性】

・弛緩期:肩甲帯や骨盤帯の後退・脱臼などが起こりやすい

 関節可動域確保(筋拘縮予防)、筋の柔軟性(血液循環の確保)、環境設定

・痙性期:上肢屈曲・下肢伸展の痙性、非麻痺側の代償

 ベッド上動作の獲得、麻痺側の認知、適切なポジショニング

 パターン化防止、痙性の防止と抑制、過剰な代償の抑制

・回復期:ウエルニッケ肢位・分回し歩行

 随意的動作における筋緊張コントロール

 

【筋緊張コントロール

問題点:非麻痺側優位の運動

    麻痺側の後退、過剰代償動作

    麻痺側を無視した動作

治療:①操作方法:不快感(痛み・違和感)を与えない

   ②他動的治療:あくまで患者の随意的動作の中でコントロール

   ③指示・命令:声のトーン・大きさ・方法・頻度に注意

   ④介助:恐怖感を与えないように・適切な介助位置で

 

 

参考文献

筋緊張のコントロール

体性感覚刺激入力による動作変化

目次

・実験と考察

・脳血管障害患者の介入

 

【実験と考察】

・実験① 起き上がり(右方向)

方法:背臥位、右前腕に対して上方から下方に圧を加える

結果:下肢屈筋の代償が軽減する

   頭頸部・体幹の立ち直りの円滑性向上

考察:前腕がベッドを知覚し探索活動(無意識)を行い左方向への体重移動

   それに伴い、体幹の筋緊張亢進・立ち直り改善を認めた

・実験② 立ち上がり

方法:座位で両大腿に上方から下方に圧を加える

結果:体幹・下腿の前傾・膝屈曲増加、円滑な動作出現

考察:前方への知覚を探索しようと、前方への体重移動が円滑化する

   前方への体重移動が円滑になり、大腿直筋・前脛骨筋の活動が低下することで

   上方への体重移動時に体幹・下肢伸展筋の活動が増大する

・実験③:立位

方法:立位にて、両踵部にクッションを入れ踏ませる

結果:体重の後方変位を認める

考察:踵重心に伴い、体幹・骨盤周囲筋・下肢筋の協調して活動することで

   安定した姿勢保持が可能になる

・実験④ 立位No2

方法:長座位にて、大転子部に手を当て、股関節内外旋を行う

結果:体幹の後方変位、体幹筋の活動向上

考察:普段しない動作のため、慣れない動作を円滑化させるために

   骨盤・体幹の安定性向上を図る必要があり、安定に繋がった。

※ADLにおいて、下肢の随意運動において末梢部を意識化させ動作することが多く

 近位部である股関節を意識して動作を行うことは少ない。

 例)段差をまたぐ、起立、階段昇降

 末梢を意識するほど、協調的な活動は求められ、難易度は上がりやすい、

 場合によっては、バランス不良から過剰な代償活動に繋がりやすい

 

【脳血管障害患者の介入】

上記より、非麻痺側に適刺激を伴う誘導は、麻痺側の筋活動を促通することができる治療に結び付けれる可能性が高い。

刺激を挿入することで、動作の円滑化・過剰な代償現象を図れる可能性がある

注意①:患者様は使用できる部位を最大限に利用しようとし、獲得した代償能力に

    より、弱い部位の使用機会が減少、回復の遅延に繋がる可能性がある。

    例)ベッド柵を引き込み、麻痺側の連合反応出現・麻痺側の使用低下。

 

 

 

参考文献

体性感覚刺激入力による動作の変化

強調運動障害の評価と解釈・介入

【評価と解釈】

①踵膝試験

 症状:最初に、股関節のみ過屈曲し、その後膝過屈曲を認める。

    進行中の突然の停止など、断続的な動作を認める

 解釈:多関節運動が円滑に出来ないため、単関節運動で代償している。

    主動作筋・拮抗筋の収縮・弛緩の遅れ。

②指鼻試験

 症状:指を勢いよく通り過ぎたり、大きく外れたりする

    障害側は、動作の開始・目標到達が遅れる。(左右で比較した場合)

 解釈:指が対象に向かって速く動くことが大切となる試験。

    →最適な運動軌跡を計算しておくフィードフォワード型制御を検査している。

③回内回外試験

 症状:肘の屈曲・内外転、手指の伸展など余分な動作が生じる

    不規則なリズムで運動となる

 特徴:小脳が運動野を制御しているが、制御不十分となり

    動作開始の遅延や動作強度の均一保持困難となり、固定機能が働いていない。

【協調運動障害と評価】

・姿勢(左右対称性)の評価

・代償として働いている部位は可動性低下・短縮を引き起こしやすいため評価

【リハビリ・注意点】

・正常運動感覚・正常パターンを与えていくのが大切。

 →評価に基づき、刺激の量を考え低緊張部位の安定性を与えていく。

  また、最初は可能な限り動揺させずに、スムーズに動かせること・自分の身体が

  正中位になっていることを認識してもらう。必要に応じてセラピストが把持にて

  圧を加え安定化を図る

 ・次第に末梢の動きを取り入れていく

  末梢部の動きに対して安定して姿勢保持が可能かどうか確認しつつ行う。 

・フレンケル体操(注意の集中・正確性・反復)を行う

・上下肢末梢部に重錘を使用した四肢の運動 

 

 

参考文献

強調運動障害に対する理学療法

小脳症候に病態生理

小脳とアプローチ

目次

・小脳の可逆性

・小脳の運動学習

・小脳と介入

 

【小脳の可逆性】

・長期増強

 ほめて強化することで望ましいパターンの生成回路を強化する方法

・長期抑圧

 叱ってペナルティーを科して間違った生成回路を減弱させる方法

 

【小脳の運動学習】

・順モデル:運動指令(原因)から運動(結果)を予測するモデル

      →運動(結果)までのひとつひとつの動きを事前に予測することで、

       外乱に対応し適時修正が可能

・逆モデル:実際の動作(結果)から運動指令(原因)を作るモデル

      →望んでいる動作(結果)を考えただけで、多くの筋に適切な

       指令(原因)が生成され、動作を達成することが出来る。

小脳と介入

【小脳と歩行】

小脳虫部・中間部は脊髄と脊髄小脳ループを形成している。

→歩行時に多様に変化する外部環境に対する適切な肢間協調の生成・外乱対応

CPGの活動情報を遠心性コピーとして腹側脊髄小脳路を介して小脳へ送られる

各種体性感覚系の情報は背側脊髄小脳路を介して小脳に送られる。

 

【小脳と高次脳】

小脳の運動機能における内部モデルの考え方が高次脳機能に当てはめられている

→例)反復して練習すると、誤差信号として内部モデル形成され、この動作はこの指令を出せば良いと分かり、速くて正確な運動が可能になる。

→言語や思考をはじめとする認知活動においても、速く正確な情報処理を可能にしている。

 

【小脳機能と運動失調アプローチ】

分かりやすい病前の動作を中心に行う

反復練習をする中で、次の動作予測ができるような展開を考える必要

患者様に合った予測運動のバリエーションを増やす

明示的指導(学習を促進する運動の反復指導)は良いとされ、動作の理解をさせたのちに、反復動作は効果的な可能性がある

 

【フィードバックからフィードフォワードコントロールするための反復動作】

問題点:早く明確な区切りのある運動は小脳に影響があるとされているが、

    連続的な繰り返し運動は小脳に影響が受けにくいとされいている。

治療:他の動作の円滑性に繋がるかどうかは疾患や症状によって異なる。

   一方で、エアロバイクや速歩(意識化させない)が動作を円滑化させることも

   多く経験する→つまり、リズムや負荷変化を考慮することも大切

 

【ステップトレーニングの効果】

問題点:歩行やトレッドミルでは、登上線維(下小脳脚)からの発火頻度は非常に低い。

治療:分離型トレッドミルは外乱歩行であり、発火頻度は極めて高い。

    →つまり、歩行練習に加えて、外乱刺激になるような治療戦略が必要

 

【重力控除における練習効果】

問題点:重力控除しない歩行練習では、多くの過剰代償を伴いやすく、

    神経系の異常興奮や使用できる箇所の過使用につながる。

治療:重力を控除した歩行練習では、重力に対する適応を1日毎に考慮するのが難しい  

   が、円滑な動作獲得に効果が期待できる。

 

 

 

 

参考文献

運動失調に対するアプローチ

失調症状の種類とアプローチ

目次

・失調症状の特徴

・運動失調の種類

・アプローチ

 

【失調症状の特徴】

①その症状が動作の場面でより顕著に出現する

②四肢と体幹が過大でかつ粗大に動くこと

③環境や動作の場面の違いにより症状が異なる

④失調症の種類により特有の症状が出現する

 

【運動失調の種類】

①小脳性運動失調

障害部位によって症状が異なる

1)小脳半球 

  役割:上下肢の運動の協調に関与し、

  症状:測定異常、測定過多、運動の分解、反復拮抗運動不能、筋緊張低下、眼振

     時間測定異常を認める

2)上部虫部 

  役割:歩行の協調性に関与

  症状:歩行は失調性でワイドベース、上肢を広げ、歩行リズムも崩れる

3)下部虫部 

  役割:体幹運動の協調や平衡機能に関与

  症状:立位で前後上下にがくがくと動揺、座位保持困難な場合もあり

     酩酊用歩行や断綴製言語、を認める

4)片葉小節

  役割:前庭系を通じて眼球運動の協調に関与

  症状:前庭眼反射異常、眼振、滑動性眼球運動の異常、衝動性眼球運動の異常

     眼球測定異常を認める

 

②迷路性(前庭性)運動失調

 特徴:前庭系(頭の傾き・回転等の運動)の障害

    平衡機能の障害、体位変換時における反射的運動の障害、体幹失調

    閉眼後に次第に動揺が大きくなる

    患側への偏倚が著明で、転倒も患側に多い、両側性は編倚なし

③脊髄性運動失調

 特徴:深部感覚(筋・腱・関節感覚)の障害による。

    静止・運動時に四肢(特に下肢)の運動失調・動揺を認める

    閉眼では明らかに動揺が増強する

    倒れる方向がバラバラで注意が必要

④大脳性運動失調

 特徴:主な病変は前頭葉と言われている。小脳性運動失調と似ている

    頭頂葉病変でも運動失調が生じると言われている

    感覚性(位置)運動失調を認める

⑤その他

  末梢神経障害、糖尿病性神経障害、アルコール性、血液循環障害

 

【アプローチ】

運動療法

 課題:体幹下部の動作時の安定性を得ることが重要

 治療:①体の重みを利用する

    ②セラピストが持続的な圧(圧力やその部分をつかむ)を加え筋活動を高める

      例)立位で肩・骨盤から下肢に向かって圧を加える

 注意:治療姿勢は患者様ごとに選択することが重要

    中枢が安定してきたら、次第に遠位部に治療ポイントを移していき、

    ①大きく活動性のある動作(歩行・階段・ADL)と②巧緻動作を実施する

【小脳性運動失調の運動療法

・概要

実際の姿勢・動作に沿って、患者様自身が自分の中で運動プログラムの作成を行うことが出来るように支援する

・注意点

視覚の利用は、気分不快になる場合は、あくまで自然に利用する程度にとどめる。

抗重力位になるほど、視覚・体性感覚系の情報処理が不十分となり不安定となりやすいため注意。また、外部入力の障害が大きいため、過剰な声掛け・大声は混乱させる可能性がある

【迷路性運動失調の運動療法

・概要

視覚情報を積極的に利用し、体性感覚と前庭感覚を一致させることが重要

動揺が起こらない動作を選択する。より随意運動を促す

 例)タンデム歩行時、最初は視覚を使用し徐々に視覚情報を減らし

   なるべく動揺・代償が起きないように治療する

【脊髄性運動失調の運動療法

・概要

体重を利用し圧覚など誘導し、動作の認知を行うこと。

抗重力運動を積極的に実施。最初は視覚情報を利用し、徐々に体性感覚にシフトする

【大脳性運動失調の運動療法

 病態・症状に合わせて治療する。

 高次脳や筋緊張などの影響が多い

 

 

参考文献

失調症患者における問題点予測